やがて白昼夢は加速をはじめる
いつからか 気付けば俺は白昼夢をみるようになっていた
内容に僅かな違いはあるものの 決まって俺と兄貴が恋人関係にある夢だった
始めは朧げな 雲のように掴みどころのない夢だった
目覚めれば あぁあれは夢だったのかときちんと夢と現実との区別がついていた
でも
いつからだっただろう
段々と 夢と現実の区別がつきにくくなっていった
目が覚めても あれは夢だったのだろうか それとも現実なのだろうかと悩んでしまうことが多くなった
……馬鹿馬鹿しい話だ
そんなこと悩まなくとも少し冷静になればわかることだったろうに
だって兄貴にはルーアの姐さんという友達兼恋人兼婚約者がいるというのに
俺なんかと……そう 俺なんかと恋人関係になっている筈がないんだ
だがどうしたことか その白昼夢をみた直後の俺にはそんな簡単なことさえわからなくなってしまう程 冷静な判断力というものが失われていた
でも
それでも まだマシだったんだそんなことは
こんな状況と比べたら 遥かにマシなことだったんだ
ことが起こったのはほんの数分前
兄貴が久しぶりに俺達の根城にしている工場に遊びにきてくれていた
兄貴が来てくれた時に舎弟たちには解散を指示してあったから そこには俺と兄貴の二人だけしかいなかった
俺はいつにも増してハイなテンションで楽しい話を喋りまくっていて
それを傍らで兄貴がうんざりした顔で聞いてくれていた
そうして俺が数十分喋り倒した後 漸く俺と兄貴は出掛けようとしていた
だがここでハプニングが起こった
座っていたドラム缶から俺が立ち上がろうとした瞬間 強烈な眩暈が俺を襲い 俺は成す術もなく意識を手放すことしか出来なかった
白くぼやけた視界の中で 俺と兄貴は談笑していた
そこが何処なのかはわからなかったけど 多分俺か兄貴の部屋だろう
テーブルを挟んで二人 向き合って笑いあってた
兄貴は誰にも見せたことのないような柔らかい笑顔で俺に愛の言葉を紡ぐ
俺はそんな兄貴にテーブル越しの軽い接吻(くちづけ)をする
いつしか二人で縺れ合うようにベッドへと倒れ込み 深い接吻(くちづけ)を交わし始める
「兄貴……」
「おぅ やっと目ぇ覚ましやがったのか?グラハムちゃんよぉ」
そう そこで目が覚めたのだ
白昼夢の中の兄貴とはお別れをしたのだ
でもまだこのときの俺は夢と現実の区別がついていなかった
だからそれ故にあんなことをしでかしてしまったのだ
「兄貴……」
夢の中では俺と一緒にベッドに倒れ込んだはずの兄貴が何故かベッドの端に腰掛けていたがたいして気にもせず 俺は夢の続き(このときの俺はあれが夢だとは気付いていなかったが)をしようとベッドに横たわっていた(今想えばわざわざ兄貴が俺の部屋のベッドまで俺を担いで運んでくれたのだろう)身体を起こし 兄貴に顔を寄せていく
兄貴は俺が何をしようとしているのかをまるでわかっていないようで 俺の顔を避けようともせず不思議そうな表情で見つめついた
そんな兄貴の頬に手を添えると一気に兄貴の顔との距離を詰め接吻(くちづけ)る
いきなりの接吻(くちづけ)に驚いた兄貴が薄く口を開けたその瞬間を逃さず 舌を差し込み口腔内を蹂躙する
だがそれも長くは続かず 冷静な思考を取り戻した兄貴の放った拳により強制的に終了させられた
「グラハム……テメェどういうつもりだ?ぁあ!?」
「兄貴……?」
殴られたことで俺にも漸く冷静な思考力が戻ってきたらしく 俺は先程自分のしてしまったことを思い返し 一気に顔を青ざめさせた
そして今に至る
目の前では怒りを顔面に携えた兄貴が椅子に座って脚を組んでいる
俺はといえばベッドの端に(さっきまで兄貴がそうしていたように)腰掛け 項垂れていた
自分のしたことを想うと 兄貴の視線すら恐ろしくてとても顔を上げることができない
気まずくピリピリとした時間だけがただ過ぎていっていた
「おい」
「……はい」
何も話そうとしない俺に業を煮やしてか 兄貴が不機嫌な声をかけてきた
それに弱々しく返事を返すと 恐る恐る視線を兄貴の方に向ける
眉間に深い皺を刻み 口を開こうとしている兄貴の顔が目に入った
「グラハムよぉ……さっきのはどういうつもりだ?」
「……」
兄貴の問いに再び俺が視線を下に向け沈黙していると 兄貴はハァ……と溜息を吐いた
と 次の瞬間
俺の頭に締め付けられるような痛みが走った
吃驚して顔を上げると 不機嫌に怒りを足したような兄貴の顔が俺の顔の前すれすれにあった
その横に兄貴の腕があり俺の頭に向かって伸びている
恐らくこの頭の痛みは兄貴が俺の頭をわし掴みしている所為なのだろう などと変に冷静に想っていると 兄貴がまたその口を開いた
「おいグラハムよぉ テメェ耳がついてねぇのか?それとも急に口がきけなくなったのかよ?ぁあ!?」
「スミマセ……っ!兄貴……」
「俺が聞きてぇのは謝罪じゃねぇんだよ ”何であんなことしやがったのか”って それを聞いてるんだろうがよ?ぁあ?グラハムちゃんよぉ」
「スミマセ……っ 兄貴……ごめ なさ…… 嫌いに ならないで 下さ……」
気付いたら俺は泣いていた
怒られたからとか痛かったからとかそんなんじゃなくて これで兄貴に嫌われたらどうしようと ただそれだけが怖かったから
ぼろぼろと涙を零す俺を兄貴が驚きと戸惑いが綯い交ぜになったような表情で見つめている
「おい……グラハム……?」
「兄貴……」
怒りに満ちていた兄貴もこれにはどうしていいかわからなかったらしい
少しの間 俺と兄貴に沈黙が訪れていた
沈黙を先に破ったのは 云わずもがな 兄貴の方だった
「なぁ グラハムよぉ 別に泣くようなことじゃねぇだろうがよ?俺が怒ってたのはキスされたからってよりも むしろその後でお前がだんまり決めこんじまったのが腹立ったからなんだからよぉ 別に理由なんか何でもよかったんだよ 寝ぼけてたとかそんなんでもよぉ」
だから泣くんじゃねぇよ そう云ってさっきまで俺の頭を掴んでいた手で今度は頭を撫でてくれた
兄貴は怒らせると怖いけど なんだかんだいって仲間には優しい
そしてそんな兄貴の優しさが 今の俺にはとても痛かった
「でも……兄貴 きっと理由聞いたら俺のこと 気持ち悪い って 想う……」
「あ?勝手に俺のこと決め付けてんじゃねーぞ? ちょっとやそっとのことで俺がお前のこと気持ち悪ぃなんて想うわけねぇだろうがよ?」
お前は俺の大事な弟分なんだから――
兄貴の俺を想って云ってくれた言葉が逆に俺の胸を刺す
それ以上を望むことは赦さないと云われたようで
でもこうなってしまった以上は俺の本当の想いを伝えなければならない
兄貴が俺を大事に想ってくれているからには これ以上兄貴に嘘を吐き続けるなんてできない
俺は暫くの逡巡の後 キスの理由を話し始めた
話し終えて俺が口を閉じても 兄貴は何も云わなかった
それもそうだろう
話していた俺だって馬鹿馬鹿しい話だと想ったんだから
夢と現実の区別がつかない?
そんな馬鹿なことがあるか 仮にホントだったとして薬にでも手をつけたと想われるのがオチだ
だから何も云わないのは兄貴なりの優しさだと想った
それに 俺の云ったことをきちんと全て信じてくれたとして きっと疑問に残ることがある筈だ
何故なら俺は肝心な部分を未だに打ち明けてはいないからだ
それは――
「おい グラハム」
そこで漸く兄貴が口を開いた
俺が兄貴の顔へと視線を向けると 兄貴は何だか考え込むような顔付きで俺の顔を凝視していた
恐る恐る俺は口を開く
「……なん ですか?兄貴」
「……いや お前夢の中で俺と恋人同士になってたっつったよな?んでしかもそれを現実と混同してたと」
「……はい」
「……なんでだ?」
「え……?」
「いやな 普通男が男と恋人同士になる夢なんざそうそう現実と混同できるもんじゃねーよなぁと想ってな でもお前は混同しちまったんだよな?しかも夢見た後は頭がぼーっとするんだっけか?冷静な判断ができないとか もしかして悪い病気にでも罹ってるんじゃねーのか?お前」
あぁ この人は本気で俺の心配をしてくれているのか
あんなことした後にあんな妄言にしか聞こえないようなことを云った俺を こんなにも
だから……こんな人だから 俺は――
「兄貴」
「なんだ?」
「俺は確かに病気かもしれません」
「……そうか じゃあ叔父貴の知り合いにいい医者がいるからそいつを「でも兄貴」
俺は兄貴の言葉を遮り 一拍於くと意を決して一世一代の告白をしようと口を開いた
「でも兄貴 多分この病気は兄貴にしか治せないと想うんです」
「は?」
「だって俺が罹ってるのは恋の病だから」
「兄貴 俺は……俺は兄貴が好きです 弟分としてじゃなくて男として 兄貴が 好き……です」
「ごめんなさい 兄貴 突然こんなこと云って でも俺本気なんです 本気で兄貴が好きなんです 好きになってなんて云いません 忘れて下さいとも云いません ただ……ただ 俺のこと 嫌いにはならないで下さい」
「こんなこといきなり男から云われて気持ち悪いと想います でも お願いだから兄貴 嫌いにだけはならない で――」
そこまで云って俺は漸く口を閉じた
いつの間にかまた涙が零れていて それを止めようとすればするほど涙の量は増えていくばかりだった
兄貴は暫く何も云わなかった
どうしよう きっと嫌われてしまったに違いない 兄弟分としての縁も切られたらどうしよう
そんな悪い考えばかりが頭に浮かんで俺はとうとう鳴咽を抑え切ることもできずに泣きじゃくり始めてしまった
でも
ぽん と俺の頭に置かれた温かくて大きなもの
兄貴の掌
顔を上げて確かめなくたってわかる
兄貴の大きな掌が 俺の頭をゆっくりと撫でている
気持ち悪いと避けられたって当然な告白をした俺に まだこんなにも優しくしてくれる兄貴
「兄貴……」
「グラハム お前は俺がそんなに小さい人間に見えるか?」
「え……」
「云っとくけどなぁ 俺はんなことでお前を嫌いになったりしねぇよ 気持ち悪いとも想わねぇ まぁ確かに驚きはしたけどな?でも嫌いにはならねぇ 俺が兄弟分にまでした奴をそんなことで簡単に突き放したりはしねぇよ」
「兄貴……」
兄貴の言葉は優しすぎて 俺の涙は止まるどころか量を増すばかりだった
そんな俺を抱きしめて まるで子供にでもするように背中をぽんぽんと叩いてくれる兄貴
「兄貴……俺 これからも兄貴の弟分でいてもいいですか……?」
「当たり前だろうがよ お前はずっと俺の弟分だ」
「兄貴……ありがとう ございます」
「んなことで一々礼なんか云ってんじゃねぇよ」
いいからもう泣き止めよ そう云って兄貴は俺の頭をまた撫でてくれた
そんな兄貴の優しさに甘えてしまってもいいんだろうか なんて考えもしたけど それでも
今はこの人の優しさだけが俺を支えてくれているから
俺は兄貴の背中に手を回し ぎゅっと抱きしめた
告白するまでは意識なんてしなかった行為でも 今は全身が真っ赤に染まってしまっているんじゃないかというくらいに恥ずかしいけど
弟分として今まで通りに甘えていこう
告白は受けてもらえなくてもその告白をした俺は受け入れてもらえたから
今はただ こうして兄貴の傍にいることのできる幸せを噛み締めていよう
願わくば これが白昼夢ではないことを祈りながら――
fjord様より
まさかこんなに長くなるとは…
量もですが書いてた日数の話です(爆
だってこれ…確か九月の終わり頃に書き始めたんだぜ…?
ちょw制作期間自重www
シリアスは難しいですなぁ
いや ギャグの方がもっと難しいですが
あれはホントに勢いだけで書き上げないと…無理なんだぜ
後で読み返すと死にたくなるしね(・∀・)
まぁ シリアスも…っていうか全部そうだけど…
っていうか折角のシリアスの後にこんな後書きwww自重しろwww
そんなこんなで最後に一言
グラハムの恋の病発言はどうかと想(ry
最後の最後まで台無しか!!(ろくな後書きができない自分に絶望)