さよならサンタクロース

 今年のクリスマスは最悪だった
 どんな風に最悪だったかというと
 まずイブから25日に変わる深夜に雪が降り始めたことだ
 ホワイトクリスマスだかなんだか知らねぇが 作業服しか着てねぇ俺には寒くて寒くて仕方がなかった
 次に最悪だったのは25日の朝 ものの見事に降り積もった雪に足を取られ 思い切り雪の中へダイブしてしまったことだ
 おかげで服も髪もすっかりずぶ濡れになってしまい ただでさえ寒くて仕方なかったのが余計に寒くなってしまった
 しかもそれに構わず遊んでいたら風邪をひいて熱が出てしまった
 おかげでシャフトに「馬鹿は風邪をひかないっていうのは大嘘ですね」と云われる羽目に……(それについてはシャフトの腹にレンチを捩込むことで憂さ晴らしができたので多少はスッキリとしたのでまぁいいんだが)
 そして何よりも最悪なのは――今此処に兄貴がいないことだ
 兄貴が隣にいてくれればそれだけで 寒いだけだった雪もロマンチックなものに変わるし滑って転んで全身びしょ濡れになったって笑い飛ばすこともできただろう
 風邪をひいて熱が出ている今だって きっと淋しくなんてなかった
 でも此処に兄貴はいない
 イブも25日もルーアの姐さんとデートしてた
 少しくらいは顔見せてくれるかと想ったけどそんなこともなくて……
 結局クリスマスには兄貴に会うことはできなかった
 寒くて淋しい俺のクリスマスは終わってしまった
 ……もう寝よう
 明日――日付が変わって結構経つからもう今日だけど――になったらきっと風邪もよくなって熱も下がるさ
 そんで 相変わらず寒いだろうけどいつものように作業服を着て そして兄貴に会おう
 そうすればこんな嫌な気持ちも淋しい気持ちも全部吹き飛んでいく筈だから
 そうしてうとうとし始めた俺の耳に ドアをノックする音が飛び込んできた
 一体なんなんだ 無視してこのまま眠ってやろうか
 なんて想っていると 更に俺の耳に驚くべき『音』が飛び込んでくる
 「おーいグラハム もう寝ちまったのかぁ?」
 え……兄貴の声!?
 俺はベッドに横たえていた身体を勢いよく起こすと 熱でふらつきながらもドアまで急いだ
 「兄貴……!」
 「よーぅグラハムちゃん」
 鍵を外しドアを開くと 兄貴は確かにそこにいた
 俺の目の前に 兄貴がいる
 夢かと想った もしくは幻
 熱に浮かされた俺の頭が見せる都合のいい幻覚
 「なんで兄貴が……此処に?」
 「なんだよグラハムちゃんよぉ せっかく人が見舞いに来てやったんだからもうちょっと嬉しそうにしやがれよな」
 「見舞い……?」
 「おぅ さっきお前の舎弟にバッタリ会ってな お前が雪で滑って転んで風邪ひいたっつーんでこうして俺様が直々に見舞いに来てやったってわけよ どうだ ありがたいだろうが」
 そう云って俺の頭を撫でながら笑う兄貴が愛しくて 俺は兄貴に抱きついた
 「おいおいどうした?熱が出てっから人恋しくでもなっちまったか?って そういやぁお前はいっつも抱きついてきてたっけな とりあえず寒ぃしよぅ 中入れてくんねーか?ん?」
 兄貴に促されて俺はそろそろと抱きついていた身体を離す
 ホントはまだ離れたくなかったけど 俺の所為で兄貴が風邪をひいても嫌だったから
 「やけに素直じゃねーのよグラハムちゃん んまっいいんだけどよ じゃあ上がらせてもらうぜぇ?」
 俺の脇をすり抜けて玄関から入ってすぐのキッチンへと足を運ぶ兄貴
 俺もそれについてキッチンへと行く
 「えっと……何してんすか?兄貴」
 「んー?どうせお前ろくなもん喰ってねぇだろうと想ってな?なんか食べやすくて消化にいいもんでも作ってやろうと想ってな」
 「え……!兄貴の手作り料理ですか?!」
 「おう 味の方は保障するぜぇ?」
 「兄貴の手料理が喰えるなんて……!今日の俺は最高についてる!なんて幸せ者なんだぁぁぁぁああああ!!!」
 「うるせぇぞグラハム お前もうベッド行っとけ 熱があるんだからよぉ」
 「うぅ……すみません ありがとうございます 兄貴」
 「別にいいっての それより俺もお前に構ってやれなかったしな プレゼントも用意してなかったから悪ぃと想ってんだよ」
 俺の頭をクシャリと撫でて薄く笑う兄貴
 「そんな……兄貴 だって兄貴は姐さんがいたんだからしょうがないじゃないですか 俺なんか構ってる暇ないの……わかってましたから」
 そう云って笑って見せた俺の頭をもう一度撫でる兄貴
 「悪ぃな……ホント」
 眉根を寄せて少し困ったように笑う兄貴の顔が切なくて 俺は想わず抱きついてしまった
 まだ火も刃物も使ってなかったとはいえ 料理中の人間に抱きつくなんて非常識だとは想ったけど そうせずにはいられなかった
 「兄貴……いいんです 俺 クリスマスには一緒にいれなかったけど でも 今こうして兄貴が俺の為に俺の傍にいてくれるだけで いいんです……」
 「……」
 兄貴は何も云わなかった 多分何も云えなかったんだと想う
 俺の態度があまりにもただの兄弟分から逸脱していたから
 いつも冗談めかして(でもいつだって俺は本気だ)「好きだ」とか「愛してる」だとか云ってるから 多分兄貴には想いが全然伝わってなかったんだと想う
 だって俺は結局怖がりだから 本気で伝わってしまうのが怖かったんだと想う
 本気の想いが伝わって そして拒絶されてしまうことが恐ろしくてならなかったんだと想う
 でもそんなこともう関係ない 伝わったって構うもんか
 兄貴……兄貴!
 「兄貴……俺は兄貴が好きだから 会えないのは辛いし淋しいです でも だからこうして会えて傍にいて話をしたりできるだけですごい嬉しいんです」
 「贅沢なんて云いません だから 傍にいて下さい 姐さんの次でいいんです優先順位なんて だから……傍にいさせて下さ い」
 兄貴は黙ったままだった
 怖くて 兄貴がどんな表情をしているのか考えただけで恐ろしくて 顔を上げることができなかった
 「……グラハム」
 暫しの沈黙の後 兄貴が俺の名を呼んだ
 「は い……」
 恐る恐る顔を上げる いつも通りの兄貴の顔
 嫌悪や拒絶の色がなかったことに多少安堵しながら それでも緊張したまま兄貴の次の言葉を待った
 「グラハム 俺はお前の想いに応えてやることは出来ねぇ」
 予想通りといってもいい言葉 そうだ 兄貴が俺の想いに応えてくれる筈がない
 だけど……胸が痛かった 胸が痛くて想わず涙が零れ落ちた
 そんな俺の涙を兄貴は指で拭ってくれながら言葉を続けた
 「でもなグラハム だからって否定も拒絶もできねぇよ お前は俺の可愛い弟分なんだから」
 悪ぃな 中途半端でよ
 そう云ってそっと抱き寄せてくれた兄貴にただしがみついて泣き続けることしかできなかった
 兄貴を困らすだけだとは想っても 涙は止まりそうにはなかった
 ねぇ もしもサンタクロースなんてのが実在するんなら 俺はちっともいい子なんかじゃぁなかったけども一つだけ願いを叶えてくれ

 今すぐ涙を止めて いつものような笑顔で兄貴に遅れたけど「Merry Christmas」って云いたいんだ
 (そうすればすぐにでもいつも通りの関係に戻れる そんな気がして)

 h a z y様より
 なんだかとても切な系の話になってしまいました…
 なんででしょうね?(知るか
 最初はもっと明るい終わり方にするつもりだったんですよ?  『淋しいクリスマスだったけど最後の最後にちょっと遅れたけどサンタさんが兄貴を俺に会わせてくれて嬉しいなー』
 って感じの終わり方にするつもりだったのに…!(何この頭悪い終わり方
 なのになんでこんな…!暗いよ…
 ていうかグラハムはどう足掻いても切な系乙女にしかなりませんか そうですか