嘘吐きな唇を遮って

 昼休み
 購買での戦利品を両腕に抱えて屋上へ続く扉を開けると そこには見知った後ろ姿があった
 日の光を跳ね返し月のように煌めく銀糸の髪
 そしてその周辺に漂う紫煙
 一目で”アイツ”とわかるそれらのサインに気付く俺に苦笑する
 犬猿の仲(といっても向こうが一方的に俺を嫌っているだけで俺は別に好きでも嫌いでもない)の筈だというのにそんな僅かの特徴だけで”アイツ”だと『確信』してしまっている自分自身が可笑しくて仕方なかった
 学校の規模としてはこの高校は大きい方だ
 ならば上背があって銀髪で煙草を吸う男子がアイツだけとは限らないだろう
 それでも俺には一目でアイツだとわかった
 何故かはわからないが確信できる
 そんなことを考えながら俺はアイツの斜め後ろまで近付いていき 声をかけようと口を開いた
 「よぉラッド これから飯か?」
 「あ?なんだテメェか 馴れ馴れしく話し掛けてんじゃねーよ 殺すぞ」
 「なんだ つれないな」
 つれてたまるか なんていう普段となんら変わらない悪態を聞き流しながら了承も得ずにラッドの隣に腰を下ろす
 きっと文句でも云ってくるだろうと想っていたら 案の定ラッドが俺の方を見て顔を顰めながら口を開いた
 「おい 何で俺の隣に座ってんだよ」
 「別に俺が何処に座ろうと俺の勝手だろう お前の了解がいるなんてことはない筈だぞ?それともここはお前の私有地なのか?」
 「うるせぇ 御託並べてねぇでさっさとどっか行きやがれ!」
 「厭だね さっきも云ったとおり俺が何処で飯を喰おうが俺の勝手だ お前に指図される謂れはない」
 そう云いながら俺が戦利品の一つ 焼きそばパンを頬張るとラッドは眉間の皺を多くして溜息を一つ吐いた
 と そのまま腰を落とし吸っていた煙草を床に押し付け消し 俺に向かって片手を差し出す
 「…なんだ?この手は」
 「俺にも一つ寄越しやがれ 腹減ってんだよ」
 「ひゃくごじゅーえん」
 「まけろ つか奢れ」
 「ひゃくななじゅーえん」
 「増えてんじゃねーかよ!」
 「仕方のない奴め じゃあとっておきのをやろう」
 ごそごそと紙袋を探り 中から目当てのパンを取り出しラッドに渡す
 「……おい」
 「ん?なんだ?」
 「お前のとっておきってのは……うぐいすパンのことか?」
 「あぁ そうだぞ?」
 「……」
 何だかげんなりとした表情で暫くうぐいすパンと見つめ合っていたラッドは ハァ〜っと深い溜息を吐いて漸くはぐりと口にくわえた
 眉間に皺を寄せたままもしゃもしゃとうぐいすパンを頬張るラッドを尻目に俺も焼きそばパンの咀嚼を再開する
 そうして俺が焼きそばパンを完食するまで互いにずっと無言だった
 パンと一緒に買ってきていた紙パックのジュースをストローで吸い上げていると ラッドがじっとこっちを見てくる
 ストローから口を話して「なんだよ」と云えば 「一口」となんとも簡潔な言葉が返ってきた
 一口飲ませろということなんだろうが 生憎飲み物はこの一パックしか買ってきていないのでこれがなくなってしまうと俺も後々きついことになってしまう
 なのでそう簡単にラッドに一口飲ましてやるわけにもいかないのだった
 が ここで俺は面白そうなことを思い付いた
 普段から絡まれてばかりでいい加減うんざりしていたというのもあって嫌がらせ紛いの『ゲーム』をしてやろうと想ったのだ
 思い立ったが吉日
 早速俺はラッドにそのゲームを提案する為に口を開いた
 「なぁラッド 今日が何の日か知ってるか?」
 「はぁ?いきなり何だ テメェ」
 「いいから 今日は何の日だ?」
 「何がいいんだよ ったく……えぇと 確か三月……じゃねぇな もう四月か 四月一日だったよな確か ってことは……エイプリルフールか」
 「正解 これからそれにちなんだちょっとしたゲームをやるから それをクリアしたらジュースやるよ」
 「くだらねーこと思い付いてんじゃねーよ」
 「まぁまぁそう云うなって ここからが面白いんだから」
 主に俺だけが と心の中で付けたしながら俺はゲームのルールの核心を話すべく わざわざ大仰な手振りをしながら口を開く
 「今日は年に一回の嘘を吐いても良い日だ だからまぁお前にとびっきりの嘘を吐いてもらおうと想う」
 「はぁ?嘘を吐けだぁ?おいおい んな簡単なルールでいいのかよ それじゃあもうジュースは貰ったようなもんじゃねーか」
 「そう 簡単だ なんたって俺に『大好きだ』と云うだけでいいんだからな」
 俺がそう云うと さっきまで余裕の笑みを浮かべていたラッドが一瞬表情を固まらせる
 二三秒の間を置いて 漸く俺の言葉を理解したのかラッドが口を開く
 「……は?」
 前言撤回 どうやら理解できていないようだ
 怪訝な顔をしているラッドにもう一度同じ台詞を云ってやろうと口を開く
 「だから 俺に『大好き』と云えばそれでいいんだと云っているだろう 聞こえなかったのか それとも理解力がないのかどっちだ」
 そこまで云って ラッドの肩が僅かに震えているのに気付いた
 こめかみには青筋が浮き 唇の端はわなわなと痙攣している
 ああ これは――
 想った瞬間
 「ふっ……ざけんなぁぁあああ!!何だそれは!?テメェはホモかこの赤毛野郎!!!」
 予想通りの罵声と大声に手で耳を塞ぐ
 「失礼な奴だな 誰がホモだ誰が」
 「お前だこの野郎 なんで俺がお前にんなこと云ってやらなきゃいけねぇんだよ」
 「だからゲームだと云っているだろう?理解力のない奴め エイプリルフールなんだから『大好き』が嘘なのはわきりきっているんだしそもそも嘘を吐くのが大前提での云わされている言葉なんだから別にいいだろう」
 「いいわけあるか!つか嘘だろうとなんだろうとテメェにそんなこと云ってやらなきゃならねぇってのが厭なんだよ!」
 「そうか……まぁ別に俺としてはジュースをやらなくてもいいんだからそれはそれでいいしな というかお前が自分でジュース買ってくれば済む話なんだがな?」
 「煩ぇな 金がねぇんだよ金が 小遣い前だからな」
 「『お友達』とか『弟分』にでも借りればいいだろう それくらい」
 「煩ぇ」
 ハァ と一つ溜息を落として俺はジュースをまた一口飲んだ
 それをラッドが横目でじっと睨んでいる
 全く そんなに喉が渇いたんなら恥なりプライドなり捨ててしまえば良いのに
 大方 俺からジュースのを奪うことを諦めるのが逃げているようでプライドに障るのだろう
 だからといって俺から無理に奪うのもこれまでの経験上無理だと悟っているのだろうし さっきの俺のゲームも受け容れられないと そういったところだろう
 まぁそれがわかっているから俺もこんな嫌がらせが出来るというものなんだがな
 そんなことを想いながら二つ目のパンを袋から取り出し口に運ぶ
 俺がむしゃむしゃとメロンパンを食べ始めると ラッドもまだ食べ終わっていなかったうぐいすパンを口に運んだ
 腹が減ったと云っていたわりに食べるのが遅いのは うぐいすパンが嫌いな(もしくは苦手な)証拠だろう
 そうまでして俺から何か搾取しようというのがわからない
 そうすることで別に俺に勝ったことになるというわけでもないだろうに
 むしろ今のラッドは俺に負けているようにしか見えない
 俺にというよりかは俺に対する意地に自滅していると云った方が正しいのか
 そんな分析をしながらメロンパンを完食し またジュースを一口飲もうと紙パックを手に取り口元へと持っていく
 俺がストローに口を付けようとした瞬間 ラッドの手が伸びてきて俺の手をがしりと掴む
 避けようと想えば避けれたが これからラッドがどうするのかを知りたくてつい為すがままに手を掴ませてしまった
 このまま無理矢理奪い取ろうとするのかと想い手に力を入れて動かされないようにしていたが しかしラッドはそうはせずにただじっと手を掴んでいるだけだった
 俺が油断するのを待っているのか?
 だけど俺の手を掴んだまま俯いているラッドの様子を見るとどうやらそういうわけでもないらしい
 ――一体何がしたいんだ――?
 そう訝しげにラッドを見ていると急にラッドが顔を上げ 俺の目を青い双眸で捉えながら薄く口を開いた
 「――好きだ」
 普段の俺を憎々しげに見てくる目付きとはまるで違う真剣な目付き
 瞬間 呼吸をすることすらその双眸に吸い込まれるように忘れていた
 そのまま段々と近付いてくるラッドの顔
 「ラッ ド……?」
 想わずラッドの名前を呟くがそれに応じることもなくラッドは顔を近付けてくる
 気付けばすぐ目の前 呼吸と呼吸が重なる程近くにラッドの顔があった
 ラッドの意図が図れず ただ固まることしかできない俺を嘲笑うかのようにラッドの口が歪む
 「ばーか」
 そう云って俺の口のすぐ前にあるストローをラッドの口が銜えた
 「あ」
 そう声が出たときには遅く ラッドの口の中にはもうすでにジュースが吸い込まれてしまっていた
 「何勝手に飲んでるんだよ」
 「ちゃんとゲームには参加してやっただろうが 文句を云うな」
 まぁ……それは確かにその通りなのだが
 だがこんなに簡単に しかも俺の方が一杯喰わされる形でゲームを成功させられるだなんて想ってもみなかったからなんだか釈然としなかった
 不満の残る表情でうぐいすパンを咀嚼しているラッドを見ると 俺の顔を見てニヤリと笑ってきた
 ……決めた 仕返ししてやる
 そっとジュースのまだ入っている紙パックをコンクリートの床に置くと ラッドがパンを飲み込んだ瞬間を見計らって ラッドの手を掴む
 「なんだよ」
 ラッドの問いには答えず ただ掴んだその手をできるだけ小さいモーションに強い力で引き寄せる
 思いがけない力で引かれたラッドの身体が大きくこちらに傾く
 バランスを崩し一瞬慌てたその隙を逃さずもう片方の手も掴み固定してやる
 「おい!なにしやが……!?」
 ラッドの言葉が終わらないうちからラッドの唇を自分のそれで塞いでやる
 ラッドの目が驚愕に見開かれる
 その双眸をしっかりと見据えたまま開かれたままの唇の中に舌を捻じ込む
 ヌルリとラッドの舌を絡めとってやれば 見開かれたままだった青い双眸が細まっていく
 暫くそのまま口腔を蹂躙していると ラッドの顔が苦しそうに歪み始める
 そろそろ放してやるかと口を離せば 苦しそうに二三度咳込む
 「大丈夫か?」
 と白々しく声をかけてやれば 怒りに満ちた双眸で俺を睨み付けながら口を開く
 「テメェ……何しやがんだこのホモ野郎!!」
 予想通りの怒鳴り声にまた耳を塞いでやり過ごす
 酸欠になっていたところへまた酸素を大幅に使った所為か ラッドはぜぇぜぇと息をきらしていた
 「顔が朱いぞ 照れ隠しか?」
 そんなラッドに追い討ちをかけるような言葉をかける
 案の定ラッドは朱かった顔を更に紅潮させて俺を睨み付けてくる
 普通の生徒だったらあまりの恐怖に泣いてしまっているかもしれないと想う程の眼力だった
 しかしそんなラッドの眼付けに大して恐怖を感じない俺は それを平然と見つめ返してやりながら笑って云ってやった
 「お返しだよ ばーか」
 その瞬間 ラッドの拳が近距離から唸りを上げて俺の顔面へと飛んでくる
 それを顔面すれすれの位置で受け止めるとすぐにまたもう片方の拳が向かってきた
 それも受け止めると両の拳を握りこんで強くラッドの方へと押し込む
 その衝撃でラッドがバランスを崩し後ろへと倒れこむのを確認してゆっくりとその上へと圧し掛かる
 「っテメェ!退きやがれ!!」
 「厭だね」
 嘲笑うように唇の端を歪めるとゆっくりとラッドの顔へと自分の顔を近付けていく
 「エイプリルフール式に答えろよ 俺のこと好きか?」
 「はっ!んなの答えてやる必要ねーな!」
 「つまらない奴め」
 「じゃぁそう云うお前はどうなんだよ」
 「俺は別に好きでも嫌いでもないぞ? ただ興味はある……おっと 興味はないけどな」
 「あぁそうかよ!俺はお前のこと大好きだけどな!」
 ラッドのその言葉にニヤリと笑い ただでさえ近付けていた顔を更にギリギリまで近付け口を開く
 「俺は嘘吐きが嫌いなんだ」
 そしてそのまま唇を押し付ける

 ラッドの抵抗も 昼休みの終わりを告げるチャイムも無視して 俺はラッドの唇を貪っていた

 エイプリルフールで学パロクレラドです…
 正直時間掛けすぎです
 でもまぁスランプ中だったので仕方ないかなーと…スミマセン
 途中ちょっとだけラドクレっぽくしちゃったんですが…見えますかね?
 解りづらいかな…まぁいい
 えっと これ一応伍千打記念も兼ねてます…
 スミマセン 結局兼ねさせちゃいました;
 こんなんで宜しければフリーですのでお持ち帰り自由です…;