クッキーとキャンディーとマシュマロとショートケーキを君に

 「ロニーさんっ!」
 朝 いつものように職員用玄関へと足を踏み入れると待っていたと云わんばかりの勢いで人影が俺の名前を大声で呼びながら駆け寄ってきた
 「フィーロ 学校では先生と呼べと云っているだろう」
 「あ すいませんロニー先生! えっとおはようございます」
 「あぁおはよう フィーロ」
 そう云って俺は人影――フィーロの頭を一つ撫でた
 フィーロが10歳くらいの時にフィーロの住むアパートに移ってきて それ以来妙に懐かれてしまっている為つい子供に対するような構い方をしてしまう
 中学生になる頃にはもうそういった構われ方を嫌がるようにはなっていたが 反応が面白くてついそんな構い方をしてしまうのだ
 だから今回もフィーロは顔を朱くして「止めてくださいよ!もう餓鬼じゃないんですから!」と叫んでいた
 そんないつもどおりの反応に苦笑すれば それに気付いたフィーロが更に顔を朱くさせ 小さな声で「からかわないで下さいよ……」と俯きながら呟いた
 そんな反応にまた苦笑を漏らしながら口を開く
 「で?一体どうした?俺より早く学校に来て」
 「あ そうだ ロニーさ……先生に渡したいものがあって」
 そう云ってフィーロが鞄の中から小さな紙で包装された何かを俺に差し出す
 とりあえず受け取りしげしげとそれを見つめてみるが何かはわからない
 重さはさほどなく 掌の上で軽く左右に振ってみると僅かにかさかさという音が聞こえた
 「……なんだ?これは」
 尋ねれば フィーロは朱い顔をまた俯かせ何やらもごもごと口ごもっている
 「ふむ……人に渡すことは出来ても話すことは出来ないとは……まぁいい 一体何が入っているんだ?これは」
 フィーロの態度を揶揄しながらも結局単刀直入に中身がなんなのかをもう一度尋ねれば 口ごもっていたフィーロも漸く口を開いた
 「……クッキーです」
 ぽつり 呟かれた言葉が俺の鼓膜を震わせ脳へと進入する
 フィーロとクッキー
 確かにフィーロは童顔で女顔でクッキーの似合いそうな外見をしてはいるが それでも中身はまるでクッキーの似合わない男らしい性格をしている
 そのフィーロが クッキーを 俺に
 「……熱でもあるのか?フィーロ」
 「なんでそうなるんですか……」
 フィーロの額に手をやりながらそう云えば フィーロは溜め息を吐き項垂れる
 「熱があるわけではないのか……まぁいい しかしなんでこれを俺に?」
 掌の上に乗せたままのクッキーに視線をやりそう問えば フィーロは小さく口を開き「お返しです」と呟いた
 「お返し?」
 俺は怪訝な顔でフィーロに聞き返す
 お返しを貰うようなことはしていなかった筈だし それに俺は特に甘いものが好きというわけでもなく それを知っているフィーロがクッキーを選んで渡してくるというのもおかしな話だ
 そんなことを考えていると 俺の怪訝な表情を見てだろう フィーロが焦ったように理由を説明し始めた
 「いや あのですね 先月ロニーさんがココア奢ってくれたじゃないですか!そのお返しっていうか 御礼です!」
 あたふたと朱い顔で必死に説明するフィーロの様子に苦笑して「そうか」と納得しておいた
 本当はまだ疑問はあるのだがこれ以上突っ込んで聞くと湯気でも出そうな程朱くなりそうなので止めておいた
 フィーロの頭をまた一つ撫でて クッキーを片手に持ったまま俺は職員室へと向かった


 昼休み
 授業の片付けを終え弁当を手に職員室を出る
 目指す先は屋上だ
 この学校の屋上は一応立入禁止になっているため生徒の出入りはなく静かに昼食をとることができる
 まぁたまに何人かの不良学生が入り込んでいることがあるためいつも静かというわけではないが
 それでもさして気にすることはないといつも此処で昼食を取っている
 屋上に続く階段を上りきり 鍵がかかっている筈のドアノブを掴みゆっくりと廻す
 鍵がかかっている筈といっても 此処に鍵がかかっていた例はない
 ようは建前でしかないのだ 立入禁止など
 しかし一般の生徒は出入りしていることがばれれば厳重注意を受けることがわかっている為面倒くさがって足を踏み入れようとはしない
 だからこそ 特に注意を受けることを何とも想っていない不良学生しか此処には立ち入らないのだ
 いつもどおり鍵のかかっていない扉を開けると屋上へと一歩踏み出す
 少し風が強い為か もう三月だというのに肌寒い
 まぁ三月などまだ気候が安定していない所為で暖かい日と肌寒い日とがない交ぜになっているような月なのだから今日の肌寒い気温も普通なのだが
 そんなことを想いながら他の校舎から死角になる場所へと歩を進め腰を下ろす
 弁当を広げ黙々と食べ進めていると 頭上で人の動く気配がして上へ顔を向ける
 「よぉ ロニー」
 そう声がしたと想うと次の瞬間には俺の横に人影が着地していた
 どうやら給水塔の上から飛び降りてきたらしい
 「上手そうな弁当喰ってるな」
 「学校では先生と呼べと云っている筈だぞ クレア」
 フランクに話しかけてくる赤毛の生徒――クレアにそう注意するが クレアは聴く耳などもっていないと云うような笑みを浮かべて
 「はいはい ロニーは相変わらずお堅いな」
 と 注意したことをまるで直そうともせず俺の隣に腰を下ろす
 まったく――と想いながらもこれ以上は云うだけ無駄だと解っているので再度注意はしなかった
 フィーロの幼馴染であり同じアパートで兄弟のように育ったクレアは フィーロとは違って生意気に育ったようで
 俺に懐きもしなければ敬意も払わないとんだ不良学生になっている
 だからこそ俺はたいしてクレアとは特に関わりを持とうとはしていなかったし それはクレアも同じだった
 まぁたまにこうして屋上であったときに飯をたかられたりすることはあったが それでも長く会話をすることもないような間柄だった
 なのに今日は普段とはまるで違う
 飯をたかるでもなく 俺に積極的に話しかけてくるクレア
 話といってもどうでもいいような世間話的なものだったから適当に相槌を打ちながら飯を喰い続けてはいたのだが
 「なぁ!」
 そうして俺が弁当を食べ終わると 急にクレアが声のトーンを一つ上げ話しかけてきた
 いったいなんだという風に目で問いかければ クレアはごそごそとズボンのポケットに手を突っ込み何かを取り出すと俺の前にそれを突き出してくる
 「飴 喰わないか?」
 「……特に飴が欲しい気分ではないが――まぁいい 貰うとしよう」
 「よし」
 差し出してきた飴玉を手で取ろうとすれば クレアはその手を引っ込め一つしかない飴玉を自分の口に放り込んだ
 「……自分で食べるかと聞いておきながら人が食べると答えた途端にそれはないんじゃないのか?」
 クレアの意図が読めずに怪訝な顔でそう云えば クレアは口角をいやらしく上げにやりと笑った
 と 次の瞬間 クレアの顔が俺の顔面すれすれまで近づいていた
 近い
 そう想ったときには既に唇が合わせられていた
 閉じている唇と歯列をクレアの唇が無理矢理こじ開けて中へと侵入してくる
 クレアの眸を直視することができずに想わず目を閉じる
 歯列をなぞり俺の舌を絡めとり吸い上げるクレアの舌
 それに翻弄されるように呼吸と脈拍が乱れていく
 「んっ……ふっ!」
 鼻から抜けるような声が漏れてしまい 鼻呼吸すらするのを躊躇ってしまう
 そうしているうちに呼吸が苦しくなっていき クレアの胸の辺りをドンドンと拳で叩く
 漸く放された唇 ぜぇぜぇと肩で呼吸をしていると口の中に甘い塊があることに気付いた
 カロンと歯にぶつかったそれを舌の上で転がしハァと溜息を吐く
 「普通に渡せ」
 「うまいだろ?」
 どっちの意味でだ と想ったが口には出さなかった
 何となく頬が上気している気がしてクレアから目を逸らす
 「……甘いな」
 「ミルク味だ」
 そう云うとクレアは立ち上がり一つ伸びをする
 「先月のチョココロネのお返しだ」
 そう一言云って扉へと歩いていくクレアの背を見つめながら そういえばそんなこともあったなとぼんやりと記憶を辿っていた
 そうして飴を舐めているうちにチャイムの鳴る五分前になってしまったので慌てて職員室へと戻っていった


 午後の授業と片付けなければならない仕事も終わり 日も落ちて外が暗くなってから漸く職員室を後にする
 駐車場に止めてある自分の車の元へと歩いていくと そこに人影があった
 「よっ!ロニー」
 去年までは校舎の中でよく聞いていた声が俺の名前を呼んでいる
 「どうした エルマー」
 その声の持ち主――エルマーは 相変わらずの笑顔を顔に携えて俺の車の前に立っていた
 そんなエルマーに俺もほんの少しだが口角を上げて応対する
 「いや ロニーに渡したいものがあってさ 顔も見たかったし話もしたかったし」
 「そうか」
 エルマーの言葉を聞きながら車の鍵を開ける
 「あ 急いでたりする?」
 俺のその行動を見て急いでいるものと勘違いしたのだろう エルマーがそう尋ねてきた
 「いや 急いでいるわけじゃない」
 「あ そうなんだ」
 「お前の方こそ 時間はあるのか?」
 「うん あるけど?」
 「自転車かバイクででも来たのか?」
 「いんや?バス」
 「そうか」
 車の扉を開け 運転席の上に鞄を置きエルマーを振り返る
 「だったら乗っていくか?」
 「え?」
 「ドライブというほどの距離は走らないが車の中で話すか ついでに送っていってやる」
 「いいの?」
 「構わないぞ」
 「ありがと ロニー」
 二人で車に乗り込みエンジンをかける
 校門を出てからエルマーの家へと車を走らせる
 20分ほどだったが他愛無い話をしてエルマーの家までの道のりを車中で過ごした
 卒業して一年が経つというのに エルマーとはよく顔を合わせていた為特に久しぶりに話をしたという感覚はなかった
 エルマーの住むアパートの前に着き 車を止める
 「着いたぞ」
 「着いたね」
 シートベルトを外したもののすぐには降りようとせずにごそごそと鞄の中を漁るエルマー
 「どうした?」
 「いやさ云ったじゃない 渡したいものがあるって」
 なるほど 確かにそんなことを云っていたなと想いながらエルマーがその俺に渡したいものとやらを見つけるのを待つ
 「あ あったあった 悪いね待たせちゃって」
 「いや」
 「はいこれ 先月チョコ奢ってくれたお返し」
 そう云ってなにやら可愛いラッピングのされた小さな包みを俺に手渡してくるエルマー
 「……なんだ?これは」
 「ん?マシュマロ」
 「……」
 今日は何故だかお返しといいながら甘いものを渡されるのが多いなと想いながら無言でマシュマロの包みを受け取る
 「……まぁいい ありがとう」
 「ん?何がまぁいいんだ?」
 「いや なんでもない」
 「そ?じゃぁまたね 今日は送ってくれてありがと」
 「あぁ またな」
 そう云ってやはり笑顔で車から降り手を振ってくるエルマーに手を振り返し 車を自宅へと向けて発進させた


 自宅アパート近くに借りている駐車場へと車を止めると 鞄と鍵を持って車を降りた
 部屋の前に行けば中には電気がつき鍵もかかってはいなかった
 はて と扉の前で首を傾げる
 今日は約束をしている日だったか――と
 まぁいいと扉を開け「ただいま」と一言告げて中に入る
 玄関がすぐキッチンダイニングになっている部屋の構造なので 中に人がいればすぐにそれと知れる
 案の定 そこには俺の想い描いていた人物がいた
 「おかえりなさいロニー 今日はちょっと遅かったんですね」
 夕食の支度を全て整え 二人掛けのダイニングテーブルの片方に着き笑顔で俺を迎える男――マイザーがそう声をかけてくる
 「あぁ ちょっとな」
 そう云いながらスーツのジャケットを脱ぎ 鞄とそれを自室ベッドの上へと置く
 「スーツが皺になりますよ」
 「……まぁいい」
 「案外ずぼらですね ロニーは」
 そう云って苦笑しながらマイザーが席を立ち ジャケットをハンガーへとかける
 「……悪い」
 「いいえ いいですよ別に それよりほら 早く晩御飯食べましょう」
 「そうだな」
 そう云って席に着くマイザー その言葉に頷いて俺も席に着いた
 「美味そうだな」
 「ありがとうございます」
 見たまま正直な感想を零せば マイザーが笑顔を更に嬉しそうに変化させた
 「さ 食べましょう」
 「あぁ」
 二人して手を合わせ「いただきます」と呟き 箸を手に取る
 見た目通り美味いマイザーの料理を食べつつ他愛無い会話を繰り広げる
 そうして食べ終わり 食後の一服をしにベランダへと出る
 春とはいえ今日は風もあり 更には日が沈んで時間も経つ為それなりに寒くはある
 が マイザーがタバコを吸わない為なんとなくベランダに出て吸う癖がついてしまった
 別にマイザーに外で吸うよう云われたわけではなく 本当に何となく だ
 一本吸い終わると 携帯灰皿に吸殻を収めそのまま部屋の中へと入る
 ベランダへと続く窓を閉め ダイニングへ戻るとテーブルの上にショートケーキが二つあった
 「……どうしたんだ?これは」
 「あぁロニー お返しですよ 先月の」
 またか そう声に出してしまいそうだった
 俺が怪訝な顔をしてショートケーキを見つめているとそれに気付いたマイザーが苦笑して口を開く
 「忘れたんですか?今日はホワイトデーですよ?」
 ……なるほど それで合点が云った
 フィーロにクッキーを渡されたのもクレアに飴を……あまり思い出したくはないが口移しされたのも
 エルマーにマシュマロを渡されたのも そしてこのショートケーキも
 「すっかり忘れていたな……まぁいい」
 「ホントに忘れてたんですね まぁでもおかげでこっそり夕食を作りにきた甲斐がありましたよ」
 「そうだな ……ありがとう」
 お互いに苦笑しながらどちらともなく席に着く
 「じゃぁ 食べましょうか」
 「あぁ そうだな」
 そうして口に運んだショートケーキはあっさりとした甘さのとても食べやすいものだった

 きちんと俺の味覚と好みを把握してくれているマイザーに 愛情が募った

 ホワイトデー学パロでした
 一ヶ月以上遅れてるのに何云ってんだコイツ・∀・
 って感じですが 云わないでやって下さい…!
 ともあれロニーさん総受けですよ
 最初はマイロニオンリーの筈だったんですが何故かこんなことに^^
 まぁいい
 とりあえずクレアは自重しろ^^
 某R様が絵茶ログでクレロニ上げてて…
 クレロニ好きなの自分だけじゃないんだ!って想ったらクレロニも入れちゃってました^^
 マイナーって良いですよね^^
 というか肝心のマイロニ部分が…なんだか薄いような^^
 折角のメイン部分なんだからチューぐらいさせればよかった…かな
 ていうかなんでクレアが唇奪ってんだ…
 なんていうかうちのクレアは不意打ち&強引キスが好きだな…
 いや 好きなのは自分か…orz